数ヵ月後。サカイさんがプラっと事務所に訪れました。
「あらいらっしゃい」
「…うん」
なんだか話したいことがある様子です。
「お連れ様はオゲンキでいらっしゃる?」
「うんまぁ…今まだシフトはいってた」
なんと言っても私たちは輝けるスーパーニート。混雑する週末を避けて、メイドカフェ行き放題です!!
そこらへんでうまいこと落とせたのかしら、ウフフ。
「それでちょっと相談なんだけどさ…」
「なんですか?」
「ちどりタン、web系でどっかアルバイトのコネとかないかなぁ?時給安くていいから簡単なやつ。
一応デザイン系専門学校だから全然使えないって程じゃないと思うんだけど…」
「時給900円クラスで良ければあるかも。でもメイドさん辞めちゃうんですか?もったいないな」
メイドさんは求人倍率が50倍にも達する店が結構あるのです。
「うん…でもさ…ああいうの、結局色恋営業じゃん、キャバクラとおんなじだよ」
「ハァ!?」
「そんなん誰だって知ってますよ!大体サカイさんだってそれを楽しみに行ったわけでしょ?
それで付き合うようになったからって辞めてくれって、そりゃアンタ偽善的に過ぎますよ。
風俗で出した後に説教するオッサンなみにウザイですよ」
「結構言うなぁ…」
「そんなアナルのちっちぇこと言うヤツだと思いませんでしたよ。本人が辞めたいっていうんなら別ですけど」
「いや、本人はね…結構楽しいし辞めたくないみたいでさ…」
「じゃあウダウダ言わずにおうちで乳繰っててくださいよ」
「でもその”結構楽しい”ってなんなんだろうね」
「ちどりタンがどう思ってたかわかんないけど、彼女のほうからコナかけてきて付き合うようになったんだよ、俺たち。
でもさ、客とメイド喫茶の子が付き合うっていうのはさ、すごーいリスクがあるってことがだんだんはっきりしてきたのさ」
「俺の彼女はね、半分冷やかしで友達と面接受けに来て、受かっちゃって働いてた。
だからオタ社会の狭さとか、怖さを良くわかってないんだと思う。
若いし、あの空間の中ではなかなか居心地いいんだと思うよ。
まず、ちょっと古参の店なら、2chに当然それぞれのお店の単独スレがあるわけじゃん。
その上、人によっては店舗のサイトで写真までバッチリ載せててさ。
そこで、客の一人と交際してるっていうことが明るみに出たら何が起こると思う?
客は当然、出入り禁止になる。別にそれはいいよ。
でも女の子は?もうね、再起不能。店辞めさせられるだけならいい。
顔写真つきで「こいつ肉便器」みたいな晒し者にされちゃう。
勿論別のお店に変わるってこともできないしさ。」
「そんなの、最初からわかってたことじゃないんですか?」
「うん…でもそれは我々がこの年で、にちゃんねらで、今までいろんな痛い目も見てるからじゃない?
20そこそこの彼女たちに、そこまで想像できると思う?
キャバクラと違って、お店側は何も守ってくれないわけね。色恋営業って、どんなトラブルがあるのかもわからないのにさ。
でも彼女たちは時給1000円前後で、そのリスクを背負わされてるわけ。
無知と若さが搾取されてると思わない?
それでも俺が辞めて欲しい、と思うのはおかしい?
僕は彼女にアキバ以外の生き方というのを、今見て欲しいんだよ。
アキバで「だけ」過ごす学生時代なんて、つまらないと思わないかい?」
「うーん…でも最終的には、本人が望まない限り、女性はどこにも行かないと思います。
サカイさんや私とは、彼女から見える世界というのは違うんだと思うんです。
私はweb屋や携帯屋の知り合いは多いから、安くていいならどこにだって押し込むことはできますよ。
サカイさんが薦めるんだから、素養はあるんだと思います。
でも最終的には望まなければどうにもならない。歯がゆいかもしれませんが、他人の人生を思い通りにしようだなんて、一方的な思い上がりです」
…と、いうようなことを言葉に詰まりながらモソモソと説明しました。